★森喜朗”売春検挙歴”裁判の判決文一部公開!

判 決

東京都世田谷区瀬田4丁目9番16号

本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。)

              森 喜 朗

   訴訟代理人弁護士   辻千晶
             浅倉隆顕

東京都新宿区新宿3丁目9番5号6階
本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。)
株式会社噂の真相
代表者代表取締役 岡 留 安 則

本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。)
岡 留 安 則

両名訴訟代理人弁護士 芳永克彦
           内田雅敏
           内藤 隆

主 文

1  被告らは、原告に対し、連帯して金300万円及びこれに対する平成12年5月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の本件請求及び被告らの反訴請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを10分し、その3を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

(中略)

3  本訴抗弁の当否
(1)公共性及び公益目的について

  内閣総理大臣は内閣の首長として行政権を掌握する立場にあり、その経歴、思想及び言動が政策判断に少なからぬ影響を及ぼすことから多大な国民の関心を受けるものであるところ、前示認定の事実によれば、本件各記事は、現職の内閣総理大臣の前歴、多数の女性問題及び不正な献金受領等の事実を摘示し、原告が内閣総理大臣としての適性を欠く旨を指摘するものであり、この指摘は国民の正当な関心にこたえる事柄に関するものであるから、本件各記事が摘示、暗示する事実は公共の利害に関する事実であり、本件各記事は専ら公益を図る目的に出たものと認められる。
  原告は、本件前歴に関する事実が40年以上昔の学生時代の私行であるから公共性も公益目的も認められない旨主張するけれども、原告の内閣総理大臣としての地位に鑑みれば、学生時代の前歴はその地位の適性を判断するのに無関係な事項とはいえず、国民の正当な関心の対象となりうる事柄というべきであるから、原告の主張は採用できない。
   (中略)

(2)原告の本件前歴に関する記述部分の真実性及び相当性について

イ(略)
 被告らが取材源を明らかにしない以上、被告らにおいて、原告に本件前歴があったという事実を真実と信じるにつき相当の理由があったと判断できる根拠もない。
 被告らが立場上取材源を明らかにし難い事情があるとしても、真実性の立証責任に要求される証明度を名誉毀損された者の不利益の下に緩和することはできない。

エ  しかしながら、前示ア、イの事実に、被告らが本件において主張する原告の本件前歴に関する「前歴カード」の記載内容は具体的で、アの事実と符合しており、その真偽はともかくとして指紋番号まで特定されているものであることを併せ考慮すると、原告に本件前歴があったという事実が真実である疑いが存在しないわけではない。ウの点も、右事実に矛盾するような事実や上記疑いを払拭するような証拠があるため、これを真実と認められないというのではなく、いわば、決め手となる証拠を欠くため、これを認めるに足りないというに過ぎない。

オ  しかのみならず、次の事実は当裁判所に顕著である。
(ア)被告らは、平成12年6月20日の本件第1回口頭弁論期日において、本訴抗弁(2)記載のとおりの原告の前歴の有無の調査を嘱託事項として、警視庁に対する調査嘱託の申立てをした。被告らは、原告に前歴があるという情報は警視庁退職者から得たものであるところ、同人には守秘義務があり、証人申請ができないため、上記申立てに及んだ旨述べた。
これに対し、原告は、当裁判所に対し、警視庁が回答を拒否することは明らかであるとの理由で、上記調査嘱託の採用に対して強い反対意見を提出した。
  当裁判所は、同年8月22日の本件第3回口頭弁論期日において、上記調査嘱託の申立てを採用し、警視庁に上記事項の調査を嘱託したけれども、警視庁は、当裁判所に対し、「犯罪経歴は、犯罪捜査のために収集、保有しているものでありますので、調査には応じかねます。」として、嘱託に応じなかった。
(イ) 原告は、当裁判所に対し、証拠として、甲第1号証、第2号証の1ないし5、第3号証の1、2及び第4ないし第8号証を提出するけれども、これらはいずれも原告の前歴の有無に関するものではない。
  当裁判所は、原告代理人に対し、前歴の有無に関する証拠の提出を促したところ、原告代理人は、平成13年1月9日の本件進行協議期日において、人証申請を行う予定はないけれども、原告本人の陳述書を提出するかどうかは検討する旨述べた。
  しかしながら、原告は、本件口頭弁論の終結に至るまで原告本人の陳述書を含めて前歴の有無に関する証拠を一切提出しなかった。

カ  被告らは、本件第1回口頭弁論期日から、犯歴番号や指紋番号を含む原告の前歴カードの内容を具体的に特定して主張し、最も直接的な立証方法として上記調査嘱託を申し立てたのに対し、原告は、本件前歴は存在せず、本件雑誌の関係記事は事実無根のねつ造記事である旨主張して、本件訴訟を提起しながら、自己の本件前歴の不存在を明白にするはずの上記調査嘱託の採用に強く反対した。本件各記事の真実性に関する立証責任は被告らにあるというべきものの、原告の本件前歴の有無については原告自身が最も詳細に事情を語り得る立場にあったのであるから、容易に証拠を提出することができるはずであったにもかかわらず、原告は、自己の供述を含めて、本件前歴の存在を積極的に否定する証拠を何ら提出しなかったものである。
 以上の点は、本件前歴の事実を報じた記事部分を事実無根のねつ造記事であるとして本件訴訟(本訴)を提起した原告の訴訟態度としては不可解というべきである。

キ  エで説示した証拠判断の点に、オの訴訟経過及びカのような原告の訴訟態度を併せ考慮すれば、原告に本件前歴があった旨指摘する前示各記述部分が 真実であることを立証できなかったとして、これに基づく不利益を被告らだけに課すのは、訴訟上の信義則に照らして相当でないというべきである。
 したがって、本件第1見出し及び本件第1、第4記事部分が不当に原告の名誉を毀損するという原告の主張は採用できない。

ク  以上によれば、本件第1見出し及び本件第1、第4記事部分並びに原告の本件前歴を前提とした意見ないし論評を記述した本件第2、第5記事部分については、原告の請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないというべきである。
(中略)

4 被告らの責任について
(略)
(3)乙第7ないし第15号証に弁論の全趣旨を総合すると、本件雑誌の本件各記事中で、マスコミが中心的に引用し紹介したのは、原告に本件前歴があるという事実に関する部分で、それらの読者の注目を受けたのもこの部分であり、それ以外の記事部分は、仮に紹介されたにしても、上記事実に付随的にされたに過ぎないことが認められる。しかるところ、上記事実に係る記事部分については、名誉毀損の不法行為の成立が認められないことは前示のとおりであって、この点について謝罪広告を認める余地はない。そして、それ以外の部分についての前示名誉毀損の態様に上記の点を考え併せれば、原告の社会的地位等を考慮しても、原告の名誉回復のためには謝罪文及び謝罪広告を掲載させるを相当とするまでには至らず、金銭の支払を受けることによって慰謝されると解すべきである。
 してみれば、謝罪文及び謝罪広告の請求は理由がない。

6 反訴請求原因について
(略)
(3〕原告による被告らの名誉・信用毀損の有無について
  民事訴訟においては、当事者が十分に主張立証を尽くすことによってその目的を達するものであり、訴訟における主張立証中に相手方や代理人の名誉を多少毀損する行為があっても、当初から相手方当事者や代理人の名誉を害する意図の下ことさら虚偽の事実や当該事件と全く無関係の事実を主張する場合、主張の表現内容、方法又は態様において著しく不適切で相手方の名誉を著しく害する場合等、社会的に許容される範囲を逸脱する主張立証でないかぎり、正当な弁論活動として、違法性を阻却されると解すべきである。 これを本件についてみるに、原告に本件前歴があったとの事実が真実と認めるに足りる十分な根拠がないことは前示のとおりであるから、本件各記述はことさら虚偽の事実を主張するものとは速断できず、その主張内容のみをもってしては、名誉毀損の事実を強調した表現態様のものにすぎないから、いまだ社会的に許容される範囲を逸脱した主張内容とは認められない。したがって、反訴請求原因(2)アの行為は、いまだ被告らの名誉を毀損するものとはいえない。
以上の点に、同(2)イの行為態様を併せ考慮すれば、この行為も名誉毀損を構成するものとは認め難い。
(以下略)